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(出典)厚生労働省「年金制度総論」

時間をかけて遺族年金制度が変わっていくことが決定

(出典)厚生労働省「年金制度総論」

公的年金制度の財政検証結果が2024年7月3日に公表され、5年に一度行われています年金制度改革の関連法案
 ・被用者保険の適用拡大
 ・在職老齢年金制度の見直し
 ・遺族年金の見直し
 ・標準報酬月額の上限の段階的引上げ
 ・iDeCoの加入可能年齢の引上げ
 ・将来の基礎年金の給付水準の底上げ
について、2025年5月30日の衆議院厚生労働委員会で可決されました。
今回、遺族年金の見直しについて確認していきたいと思います。

遺族年金は「遺族基礎年金」(子供がいるかいないかで受給権利発生)「遺族厚生年金」(厚生年金加入者に万一があった場合)がありますが、今回、大きく変更の手が加えられるのは遺族厚生年金です。

※既に遺族年金を受給している方は変更ありませんのでご安心ください。

大きなルール・イメージとして、遺族厚生年金は「妻」のためのものとなっていますが、それを「夫」のためにもなるようにしようという男女差解消ところからの改定です。
そして、改定は2028年4月からとなります。
「夫」に対してはその時点からですが、「(18歳年度末までの)子どものいない妻」に対してはそこから20年かけて変更されていきます。
さらに、2028年度に40歳以上になる妻には影響がないようになっています。
逆に言うと、2025年現在で37歳未満の女性に大きなマイナスインパクトがある話です。

以下①~④に該当する方は、今回の見直しの影響はありません。
①既に遺族厚生年金を受給している方
②60歳以降に遺族厚生年金の受給権が発生する方
③18歳年度末までのこどもがいる方
④2028年度に40歳以上になる女性

(出典)厚生労働省「年金制度総論」

60歳未満の「夫」と「妻」の遺族厚生年金は5年間給付

話題になっている改悪ポイントですが、これまで遺族厚生年金は、妻が夫の老齢厚生年金の3/4を一生涯(夫死亡時に30歳未満の方は現在5年です)受け取ることができましたが、2028年4月からは5年間の有期給付となります。
その対象は、18歳年度末までの子どものいない2028年度末時点で40歳未満の方です。
その代わり、受給金額を増額するというもの、死亡時分割および年収要件の撤廃(20~50代の子供のいない夫婦が対象)が導入予定です。

しかしながら、制度として遺族厚生年金が一生涯受け取ることができなくなるということではありません。
夫死亡時に60歳になっていた場合は、一生涯受け取ることができます。
※上記、夫・妻については2028年4月からはどちらも同じとなりますので、妻死亡時には夫が受給できます。妻が厚生年金に加入していることが必要です。

2028年4月時点で40歳未満になっていますが、段階的に60歳未満になっていくということです。

中高齢寡婦加算もなくなる

女性のみが対象となっている厚生年金から支払われている中高齢寡婦加算(40歳~65歳までの妻)も段階的に減額され廃止されます。

弱者救済という視点よりも・・・

年金制度は複雑です。
今回もまたチョコチョコと改定していくことにより、複雑化は進んでいきます。
知識人たちが必死にやっているのでしょうけど、有難迷惑レベルでしょう。

(ここでは)妻が遺族年金を受給するということは、シングル(子がいるいないに関わらず)になるということです。
シングル家庭の所得水準が低いのは周知の事実でありますが、それとの整合性はとれるのでしょうか。
特に若い世代、40代もまだ若い世代と考えてみた場合、金融資産はいかほどでしょうか?
これはデータで分かることです。

日本人の普通の人々の実生活と高給取り(知識人や官僚、議員)の机上の空論者の考えはここでも乖離しているのではないでしょうか。

もちろん若い世代のシングル家庭の状況や理由は人それぞれです。
今回のような「死別」前提の他に「離別」「未婚」がありますが、データからは「死別」が圧倒的に多いです。
しかし、「死別」世帯がそれほど貧困化していないのは遺族年金と生命保険(死亡保険金)の影響ではないかと思います。
高齢シングル女性の貧困化(老齢年金受給状況)からも想像できるように、老齢年金のみでは厳しい生活状況となります。
やはり遺族厚生年金(3/4)の有難みは相当なものではないでしょうか。
事実、シングルの女性で「死別」が高い年金水準(15万円以上が4割弱)となり、遺族厚生年金の影響だと考えられます。
未婚女性もそこそこの年金を受給していることから、国による今回の制度変更を考えると、女性に結婚や出産を求めるのは人生のリスクが高くなるのではないでしょうか。
というのも「死別」ではなく「離別」「シングルマザー」になると、多くの女性は貧困化していく傾向がでているからです。

弱者救済(遺族年金というのはそういう部類)という視点が欠落してきているここ何年かの日本政府の姿勢はまだまだ序の口なのでしょう。
そのような姿勢が上場企業をはじめとした大企業、そこで働くサラリーマンたちにも悪い考え方が伝染していっていると感じます。

個人的に思いますが、国会議員のみならず、霞が関官僚の給料水準は大幅に下げてもらわないといけないと思います。